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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(2002年12月)

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『ダレン・シャンY―パンパイアの運命―』

"The Vampire Prince"

ダレン・シャン/文

橋本惠/訳

小学館

2000.10.20

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 ダレン・シャンシリーズ6作目。このシリーズは、奇妙なサーカス、シルク・ド・フリークを見に行き、そこに登場した毒グモを盗んでしまったことがきっかけで、バンパイアの血が半分流れる半バンパイアにされてしまった少年、ダレン・シャンが主人公である。2作目までは半バンパイアとなり、生活が一変し翻弄され、半バンパイアとして生きていくことに挫折するダレンの姿を描いたものだった。3作目でダレンは、かつては仲間でありながら、今や宿敵になってしまったバンパニーズという存在があることを知る。このことはダレンに、自分がバンパイアの仲間であるという意識を芽生えさせた。そして4作目からのダレンはさらに成長し、自分の運命を受け入れ始め、バンパイア達の総本部的存在であるバンパイアマウンテンで"試練"を受けるまでになる。半バンパイアであろうが、試練の課題を全てクリアすれば、一人前のバンパイアとして認められる。水没していく迷路からの脱出や、炎がランダムに噴出する鉄板の上を15分間走り続けるなどの課題には成功したものの、結局はバンパイアマウンテンを追われる結果となってしまう。蟻の巣のように洞窟が縦横に走っているバンパイアマウンテンの中を、必死に逃げるダレンだったが途中、バンパイアマウンテンに宿敵バンパニーズが集結していることを知る。その上、逃亡に手を貸してくれた友人が仲間を裏切り、殺すところまで見てしまった。ショックを受けるダレン。このまま、裏切り者の言いなりになるわけにはいかない。かといって、ここでバンパニーズや友と戦ったとしても勝ち目はないと悟ったダレンは、一か八かで目の前の川に飛び込んだ。バンパイアマウンテンの内部を走るこの川が、外へ出られる唯一の道となってしまったのだ。6作目は川に飛び込んでからの様子から話が始まる。どうにか外に出ることができたものの、身も心もぼろぼろのダレンは一歩も動けない状態だ。冬の寒さは厳しく、意識も遠のき始めたそのとき、以前一緒に旅をした狼たちが目の前に現れる。狼たちに助けられたダレンは逃亡をやめ、裏切り者の告発と仲間たちの援護のために、バンパイアマウンテンにもどる決意をする。うまくいかなければ、死が待っているのも顧みずに。
 気が弱くどこか甘ったれな少年が、ひとつひとつの問題を解決していくたびに、精神的に成長し賢くなっていく様は、ハリー・ポッターを思い起こさせる。大きく違う点といえば、ハリーは、ヴォルデモートの手から逃れることのできた人間として、初めから周囲の人々が味方として存在しているのに対し、ダレンは半バンパイアという不利な条件のもと、周囲を徐々に味方につけていくというところであろうか。ダレンの人柄が、どこか冷酷なバンパイアたちにどう影響してくるのか、これからの展開が楽しみである。ただし、この作品は毎回「描写に対し不快の念を抱かれる読者の方が……」と注釈がついてくるほど、残酷なシーンが描かれるときもあるので、了解した上で読んでほしい。例えば、シリーズ中には、狼男によって死を待つだけになっている友の生き血を、友の思い出を身体に入れるためとはいえ飲み、安らかな死を迎えさせるというシーンも出てくる。確かに残酷ではあるが、主人公の少年の無力感や憤りが、痛いほど伝わってくるという点においては、大切な表現だったりもするのだ。

【作者】ダレン・シャン(Darren Shan):本名は Darren O'Shaughnessy。ロンドン生まれのアイルランド人。"CIRQUE DU FREAK"(訳書『ダレン・シャン――奇妙なサーカス』)は初めて取り組んだ子ども向け作品。以降このダレン・シャンシリーズは、原書としては7巻まで、訳書も6巻まで出版されている。
参考:OFFICIAL web site for Darren Shan

【訳者】橋本惠(はしもとめぐみ)::東京生まれ。東京大学教養学部卒。子供向け作品としては、ほるぷ出版のポップアップ絵本シリーズ『わたしのママ?』、『いっしょにごはん』、カメが主人公のトレバーシリーズ『トレバー、がんばって』などがある。

西薗房枝

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『魔女の丘』

"Witchery Hill"

ウィルウィン・W・カーツ/文

金原瑞人・斉藤倫子/訳

福武書店

1990.11.16

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*この作品は現在手に入りにくくなっております。図書館等をご利用ください。

*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 魔女といっても、架空の世界を支配したり、魔法学校で勉強したりしている魔女の話ではありません。2〜300年前、ヨーロッパやアメリカで盛んに行われた魔女狩りのことはご存知でしょうか? 人間が人間を「魔女」と見なして命を奪ったのです。まったくの濡れ衣で犠牲になった人もいましたが、実際に悪魔を呼び出すミサ、敵に呪いをかける呪術といったことを信じて、行う人達もいたようです。もちろんこれらは既に過去のものとされていますが、この近代社会に黒魔術がまだ行われている場所があったとしたら……。

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 マイクは14歳。両親は離婚して、今は母とふたりでアメリカに住んでいる。でも、長い休みはいつも父と一緒にすごすことになっていた。この夏休みふたりが訪れたのは、イギリスのガーンジー島。ノンフィクションライターの父は、友人、トニーの屋敷に滞在しながら、この島の歴史を1冊の本にまとめようとしていた。トニーの家族は後妻のジャナインと13歳の娘リザ。リザは継母にとても反抗的な態度をとり、マイクを驚かせた。
 古い歴史を持つこの島には城も残っている。だが、ひときわ目をひくのは、あちこちに巨石の散らばるトレピエの丘だった。どこか不気味な雰囲気が漂うその丘では、15年ほど前まで魔女の集会が開かれていたという。ところがマイクは、観光でトレピエの丘に登った日の夜中、黒いケープをまとった人たちが丘の上で犬を生贄に捧げるのをみてしまう。集会は現在も行われていたのだ! さらに驚いたことに、丘の上でマイクはリザに会った。リザは黒ミサにジャナインが参加しているかもしれないと疑って、調べにきていたのだった。 
 次の日、トニー一家とマイクたちは、隣のロック館への招待を受けた。ロック館の主人、シートン・ゴスは魔術に関する蔵書のコレクターとして有名な人だった。仕事柄、マイクの父は興味を持ってゴスに質問を浴びせ、蔵書のことを聞き出した。ゴスのコレクションには貴重な文献が数冊あるという。なかでも『古アルバート』は最も古く、「破棄したり、紛失したり、故意に置き去りにしたりすること」ができないという奇怪な本らしい。そして悲劇は突然始まった。この席上でゴスが毒入りのシェリーを飲んで死亡したのだ。実は『古アルバート』の所有者ゴスは、その書物の力故に、トレピエの丘に集うグループのリーダーとなっており、ジャナインとゴスのいとこイーノックは密かにリーダーの座を狙う魔女と魔術師だった。ゴスの死により、ふたりの確執があらわになる。不思議な書を巡る醜い抗争が幕を開けた。『古アルバート』はどこにあるのか? 巻き込まれたマイクとリザは魔の手から逃れられるのか?
 邪魔な相手を亡き者にしようと、ジャナインとイーノックが繰り広げる邪悪な行い。マイクは悪と戦おうとして父に助けを求める。しかし、父は魔術など信じない現実主義者のうえ、魔女と魔術師の表の顔にだまされてマイクのいうことを信じない。じりじりと悪い方へと進んでいく混沌の中、マイクは恐怖におびえ、無力さに唇をかみしめる。しかし、最後には、たとえわずかでも自分のできることをするしかないと心に決め、立ち上がる。『古アルバート』の謎解きが鍵になるこのミステリは、人物設定や細かな伏線の巧みさはもちろん、はらはらするストーリー展開にもうならせられる一冊だ。

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 歴史上の事実とし伝えられている魔女。彼女らが本当に魔術を使えたのかどうかを確かめるすべはありません。しかし、魔女狩りの悲劇を生んだのは人を陥れようと錯綜する悪意でした。ここにでてくるガーンジー島の悲劇も、権力争いからくる悪意のぶつかりあいです。本当の魔女とはファンタジーの世界ではなく、人の心の中に住んでいるものなのかもしれません。

【作者】ウィルウィン・W・カーツ(Welwyn Wilton Katz) :1948年生まれ。カナダとロンドンを故郷とする。高校の数学の教師をする傍ら小説を書き始める。1977年、7年間の教師生活に別れを告げ、本格的な執筆活動に入った。徹底した調査・取材のもと、神話を下敷きにした小説や、スーパーナチュラルな要素を持つ小説を発表。カナダとアメリカで多くの賞を受けている。

【訳者】金原瑞人(かねはらみずひと):1954年生まれ。法政大学英文学専攻博士課程修了。法政大学教授。英語圏から子どもとヤングアダルト向けの優れた作品を精力的に日本に紹介している。訳書多数。(金原瑞人訳書リスト参照)

【訳者】斎藤倫子(さいとうみちこ):1954年生まれ。国際基督教大学語学科卒。訳書に『メイおばちゃんの庭』、『スクーターでジャンプ!』『ロバになったトム』などがある。

大塚典子


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