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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(99年3月)


『あなたがもし奴隷だったら』表紙

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  『あなたがもし奴隷だったら……』

     From Slave Ship to Freedom Road

   ジュリアス・レスター文/ロッド・ブラウン/絵
   片岡しのぶ訳

   あすなろ書房 1999.2

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【ストーリー】

 アフリカ西海岸からアメリカに大陸に運ばれた奴隷。なぜ、こんな目にあわねばならぬかもわからぬまま、弱い者は死んで海に捨てられ、生き残った者は新世界で奴隷として売られていった。彼らそれぞれが、どんな人であったかは関係がない。彼らは労働力にすぎなかった。

 白人の主人は奴隷を虐待したり、”もの”のように売買したりした。家族が売られていくのを黒人奴隷たちはどんなに悲しんだことか。奴隷たちはたびたび逃げ出した。だが、大半はつかまり、連れ戻された。そして、ムチ打たれた。それでも、奴隷は逃げた。何度でも逃げた。恐怖から逃れるために。自由になるために。

 南北戦争がはじまったとき、黒人たちも北軍とともに南軍と戦った。奴隷制度に終止符をうつために、その制度によってもっとも苦しんだ者が戦い死んでいった。

 奴隷たちは自由になった! 自由! だが、自由とはどんなものか、解放された奴隷たちにはわからなかった。自由とは、自分を所有すること。自分が自分の主であること。責任をともなう約束ごとだ。

 自由をどう守っていくのかを、自由になった黒人たちは、(そしてすべての人間が、)今、なお学びつづけている。

【感想】

 ロッド・ブラウンが7年かけて制作した、奴隷をテーマにした絵画36点のうち、21点を収録。『奴隷とは』(ニューベリー・オナー賞 木島始 黄寅秀 訳  岩波新書 1970)のジュリアス・レスターが文を書いた。『From Slave Ship to Freedom Road 』という原題が示すように、奴隷船でアメリカ大陸に連れられてきた黒人が、南北戦争後に解放されるまでの道を描いている。

 アフリカ大陸で暮らしていた黒人が、なぜ、人間としての尊厳を奪われ、アメリカへ奴隷として連れてこられたのか。なぜ、奴隷というビジネスが存在したのか。容易には答えの見つからないこうした疑問を、奴隷の子孫である黒人たちに、奴隷制度という罪をつくりだした黒人以外の人々に、あらためて問う作品である。黒人奴隷制度が、黒人にとっても、白人(黒人以外の人々)にとっても、過ぎ去ってしまった過去ではないことを思い起こさせ、自由の尊さを訴えている。

 ロッド・ブラウンの絵は衝撃的で、思わず息をのむほどだ。その絵に触発されて書かれたジュリアス・レスターの文章は、まるで心の奥に潜む怒りをぶつけるかのような迫力がある。このふたりの絵と文章のせめぎあいが、人間の歴史の悲しい汚点を読者の目の前につきつけている。社会的にも意義のある作品のひとつだ。ただ、小さな子どもが理解するのには、大人の助けが必要となるだろう。いずれにしても一度読んだら、忘れられない。

(柳田利枝)

                                                                                

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【作者】

Julius Lester(ジュリアス・レスター):1939年、アメリカ生まれ。マサチューセッツ州アマースト大学教授。著書に『奴隷とは』(前掲書)、『おしゃれなサムとバターになったトラ』(ブルース・インターアクションズ)など多数。

【画家】

Rod Brown(ロッド・ブラウン):1961年、アメリカ生まれ。「奴隷」をテーマに7年かけて36点の絵を制作。それらは、ニューヨーク市にある黒人文化研究のための図書館ションバーグセンター(The Schomburg Center for Research in Black Culture)と、ワシントンD.C.のフレデリック・ダグラス博物館で展示。現在、続編を制作中。

【訳者】

片岡しのぶ:和歌山県で生まれ、岩手県で育つ。国際基督教大学教養学部卒業。児童文学から、ミステリー、ノンフィクションまで訳書多数。夫とともに翻訳工房パディントン&コンパニィを主宰。著書に『翻訳家になりたい人へ』(中経出版)、『翻訳練習帳』(バベル・プレス)、最近の訳書に『ナゲキバト』、『種をまく人』(あすなろ書房)などがある。

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