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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(99年6月)


『紙人形のぼうけん』表紙

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  『紙人形のぼうけん』

     FIVE SISTERS

   マーガレット・マーヒー/作 清水真砂子/訳
   パトリシア・マッカーシー 絵
   岩波書店 1998.10.  

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

【あらすじ】by沢崎杏子

 静かな夏の日。サリーのおばあちゃんが1枚の紙を折り畳み、女の子の絵を描いて切り抜くと、同じ形の5人の人形が手をつないだ細工ができた。おばあちゃんは、自分の描いた人形にアルファと名付けた。ところが、サリーとおばあちゃんが席を外した隙に、紙人形たちは消えてしまった。二人は知らなかったが、紙とペンには秘密があり、アルファは心を持ったのだ。そこから、紙人形たちの風まかせの冒険が始まる。冒険の途中で紙人形を見つけた人が輪郭だけの人形に絵を描く度に、新しい性格を持った姉妹が増えていった。元気なアルファの後に続いたのは、想像力豊かなキャサベル、泣き虫のエロディー、賢いイカシア、そしてユーモアたっぷりのザマイラ。たくさんの冒険を経て、5人の姉妹が揃うまでには長い年月がかかった。そして、5人が揃った場所は……。

【感想】

 マーヒーのストーリーテラーとしての力量がいかんなく発揮された作品。やさしい語り口の短い作品だが、その中に多くのメッセージが詰められていて、しかもそれが押しつけがましくなく心に届く。パトリシア・マッカーシーの可愛らしいイラストが興を添え、こどもに安心して読ませられる1冊である。5人姉妹を通して個性を持つことの素晴らしさを訴えるメッセージは、画一的なしつけをしがちな親にも是非受け止めてほしい。後半に出てくる化学の「共有結合」などの概念のために対象読者が小学校4、5年以上になったようだが、ここをもう少しやさしい事例にすれば低学年でも充分に楽しめただろう。物語の雰囲気は低学年向けなだけにこのアンバランスが唯一悔やまれる。(沢崎杏子)

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【作者】

Margaret Mahy(マーガレット・マーヒー):1935年、ニュージーランド北島ワカタネ生まれ。ニュージーランド大学卒。1958年以降、図書館員として働く。1969年に"A LION IN THE MEADOW"(『はらっぱにライオンがいるよ』/偕成社)でデビュー。以後、精力的に作品を発表する。1980年より創作に専念。1982年"The Haunting"(『足音がやってくる』/岩波書店)、1984年"The Changeover"(『めざめれば魔女』/岩波書店)でカーネギー賞を受賞。作品は絵本のテキストや奇想天外な低学年向けの物語から超自然的な要素を取り入れたヤングアダルトまで幅広い。

 

【訳者】

清水真砂子(しみず・まさこ):1941年、北朝鮮生まれ。1964年静岡大学卒業。青山学院女子短大教授。訳書にマーヒー『めざめれば魔女』『ゆがめられた記憶』『ヒーローのふたつの世界』のほか、ル=グウィン『ゲド戦記』四部作(いずれも岩波書店)など多数。他に児童文学評論の分野で『子どもの本の現在』(大和書房)『子どもの本のまなざし』(JICC出版局)などの著書がある。

 

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