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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(99年2月)


『はるかな湖』表紙

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  『はるかな湖』

     The Lost Lake

   アレン・セイ/作 椎名誠/訳
   徳間書店 1999.2.28 

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

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 主人公の「ぼく」は、夏やすみにとうさんの家へ遊びにいく。
 でも仕事ばっかりで、ひとこともしゃべらないとうさん。ぼくは、遊び相手もなく、すぐにあきあきしてしまう。
 ところが土曜日の朝早く、とうさんは急にキャンプに行くといってぼくを起こした。子どものころにいったひみつの湖をさがしにいくというのだ。
 そして……

 夏休みの、とある冒険をつうじて、これまであまり語り合う機会のなかった親と子が、心をかよいあわせていくさまを静かに描いた傑作。絵も美しく、最後の場面はさながら「現代の『よあけ』」(シュルビッツ作、瀬田貞二訳、福音館書店)と、やまねこの会議室でも話題になった。

 主人公の「ぼく」は、ふだん父親と別れて暮らしている。そのことは、冒頭の1行で示されるだけで、あとは一切触れられないのだが、読み終えてみると、この「語られない物語」が、深い余韻となってせまってくる。いつの間にか、この男の子の人生にまで思いをはせてしまう。

 椎名誠さんの翻訳は、男の子の気持ちにぴったりと寄り添い、アウトドア・マンとしてのご自身の体感をも交えて、原作の意図を深く掘り起こしている。さりげなく、淡々と訳しているようだけれど、その奥には熱い思いが感じられる。原作と翻訳の絶妙のコンビネーションである。 (内藤文子)

 

【作者】

アレン・セイ:1937年、神奈川県生まれ。12歳で漫画家、のろしんぺいに弟子入り。幸せな4年間を過ごしたが、16歳のとき離婚した父につれられてアメリカに移住。さまざまな職業を転々としたのち、写真家として身を立てる。最初の絵本 'The Ink-Keepers Apprentice'(のろしんぺいの弟子として過ごした時代を描いたもの)は、自分のフォト・スタジオで描きあげた。 その後、絵本作家として一本立ち、1994年には 'Grandfather's Journey'で、コールデコット賞を受賞した。日本で紹介されている作品に『じてんしゃのへいたいさん』(水田まり訳 新世研)がある。 

【訳者】

椎名誠:1944年、東京都生まれ。作家、『本の雑誌』編集長、映画監督。主な作品に、『哀愁の町に霧が降るのだ』(新潮社)、『アド・バード』(日本SF大賞、集英社)、『岳物語』(集英社)、映画作品に『ガクの冒険』、『うみ・そら・さんごのいいつたえ』、『白い馬』などがある。本書が初の翻訳作品。

 

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