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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(99年4月)


『時計ネズミの謎』表紙

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  『時計ネズミの謎』

     Time and the Clockmice, Etcetera

   ピーター・ディッキンソン/作 
   エマ・チチェスター・クラーク/絵 
   木村桂子/訳  評論社 1998.5 

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 

 

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 ブラントンの町の有名な大時計が、99年目を迎えて止まってしまった。そこで、時計をつくった技師の孫であるわたし、老時計技師の出番がやってきたんだ。わたしが大時計のからくり人形のふたをあけてみると、そこにいたのは普通とちょっと違うネズミ。じつは、この時計の中には、賢いテレパシーネズミの一族が住んでいた。どんなテレパシーかって? 彼らは絵言葉のようなかたちで意志を通じ合う。ほら、エマさんの描いた絵をみてごらん、こんな感じさ。

 時計の修理をするうちに、からくり時計のしくみのすばらしさと共に、時計ネズミのすばらしさがわかってきた。わたしのユニークないとこたち――鐘の魔力にとりつかれたミニー、マーマレード好きで材木の研究家サイラスなど――の助けも借りながら、なんとか修理はすすんだ。だが、わたしの失言がもとで、ネズミたちに危険がせまることになってしまった! 

 異常な設定と超自然的な出来事が、豊富な知識に裏付けられた詳細な描写によってリアリティを持つというのが、ディッキンソンの作風である。軽いタッチのこの作品においてもその持ち味がよく生かされ、おとぎばなしのような筋立てが決して嘘っぽくならない。時々挿入される技術的な解説、哲学的な考察などの余談めいた部分も説教臭くはなく、ストーリーと絶妙にからみあってくる。章立てのかわりに、「ネズミについて その1」「鐘について その1」といった見出しの文章で全体が組み立てられる、ちょっと変わった構成。子ども対象の作品でありながら、登場人物に子どもがひとりもいないのも特徴といえる。凝った言い回しやイギリス人らしい諧謔に満ちた文章は、読書力のある子ども向けだし、設定もはじめはわかりづらいが、文章とぴったり合ったふんだんな挿絵(エマ・チチェスター・クラーク。他の作品に『竜の子ラッキーと音楽師』岩波書店など)が助けになるだろう。

 お話を楽しみながらいつのまにか、真理や人間や地球について思いをはせている自分に気がつく、魅力にあふれた一冊。文字の多い絵本という体裁だが、内容は小学中学年以上向け。大人も充分楽しめる。(菊池由美)

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【作者】

Peter Dickinson(ピーター・ディッキンソン):1927年、リビングストンに生まれ、幼年時代をアフリカで過ごす。ケンブリッジ大学在学中に週刊誌「パンチ」の文芸編集者の職につき、17年間務める。その間に評論、創作を始め、初めての本格長編ミステリを1968年に発表、ゴールド・ダガー賞を受賞する。同年、児童向け作品"The Weathermonger"(『過去にもどされた国』大日本図書)を執筆、その後も多くの作品を発表し、カーネギー賞(2回)、Whitbread賞、BGHB賞など、ヤングアダルトの主要な賞だけでも16回も受賞している。

【訳者】

木村桂子(きむらけいこ):1947年、東京生まれ。大阪大学大学院修士課程修了(工学科石油化学専攻)。創作『からっぽの地球人』で、愛知県教育振興会「子とともに、児童文学賞」最優秀賞受賞。1985年、ひくまの出版から『泣くなあほマーク』と改題して出版される。その後も幼年文学作品を執筆。最近の創作作品に、『ワームホールの夏休み』(評論社、1995年)がある。

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