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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(98年5月)


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  『めぐりめぐる月』

  Walk Two Moons

  シャロン・クリーチ/著 もきかずこ/訳
  講談社ユースセレクション 1996.6.

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【あらすじ】

 インディアンの血をひく13歳の少女サラマンカは父親と二人暮らし。「チューリップが咲く頃には帰って来るから」と言ってそのままいなくなってしまった母親の帰りをずっと待っています。

 ある日サラマンカは、祖父母に誘われて母親を探しに行くことになります。母親がいると思われる場所までは約3000km。祖父が運転する車の中で、サラマンカは、同じように母親に突然姿を消されてしまった親友フィービーの話をゆっくりと祖父母に語ってゆきます。

 同じような立場に置かれた親友の話をしながら自分を、そして家族を見つめ直していくサラマンカ。それをあたたかく見守る祖父母。旅が終わりに近づくにつれて、彼女のかたくなな心は少しずつ開かれていきます。果たしてサラマンカは、母親に会うことができるのでしょうか……。

【作品について】

 泣ける話ではありますが(実際私も泣いてしまいましたが)、たくましい主人公と明るい家族のお蔭で、作品自体はじめじめしていない、からっとしたものに仕上がっています。特に、主人公の祖父母の愛すべきキャラクターは最高です。とても愛し合っている夫婦で、道中、病に倒れてしまった妻の手を握りしめ、「追いはらいたきゃ、わしの手をちょんぎってからにするんだな」と医者にくってかかるおじいさんには、主人公の物語とは別に泣かされてしまいました(この祖父母には他にも泣けるエピソードがいろいろあります。もちろん、笑えるエピソードも)。

 意外とも言える結末へと導いていくストーリーの展開の仕方も見事で、さすが1995年のニューベリー賞受賞作だと思いました。

 シャロン・クリーチの作品は、全部で4作。『めぐりめぐる月』の他には、『赤い鳥を追って』(訳・もきかずこ、講談社、1997年、1600円)が日本で出版されています。『めぐりめぐる月』の主人公サラの生まれたバイバンクスが舞台のお話です。

● やまねこの会議室から ●

視点が大きい・高いという言い方ってあるでしょうか。時間の軸も、場所の軸も大きく開いています。家族・人間関係の見つめ方も、深いように私は思いました。
 登場人物がとても身近に感じられます。体に触れられるくらい、吐く息が聞こえてくるくらい、一緒に泣けてしまうくらい、です。ついつい同化して読んでしまうのです。主人公にはもちろん、おじいちゃんとおばあちゃんにも、感情移入をしてしまいました。(ワラビ)

サラマンカの物語の結末は、実はあまり意外ではありませんでした。多分、彼女が旅をしながら少しずつ心に積み上げていった思いが、わたしに心の準備をさせたのかもしれません。でも、何だか張りつめていた緊張が解けて、逆に涙が出ました。
 フィービーの物語の方は、逆に「えっ?!」という感じでした。フィービーのお母さんの気持ち、すごくよくわかります。お母さんというのは、家族にとってはああいう存在なのだろうけど、でも……。何だか複雑。(くるり)

読みごたえのある本でした。この先はどうなるのだろうとドキドキさせてくれるミステリーの良さもあります。おもしろかった。
 しかし、最後の数章には、まいりました。謎がいっきにとけていくのですが、あまりにもつらくて……。涙がとまらない! おじいちゃんとおばあちゃんが素敵です。へんに明るいだけじゃないです。サラマンカに大きなプレゼントをしようと、精いっぱいだったんですよね。表には出さなかったけれど、心の中は真剣だったんです。そういう姿勢好きなんですよ。(Chicoco)

担当:ベス  *表紙の写真は出版社の許可を得て使用しています。

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