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毎日新聞 1998年1月       掲載紙から   トップ

光る生物
アニタ・ガネリ/著 オービン、ロジャー・スチュワート+ピーター・サーソン/画 中川美和子/訳 白水社 1900円

アーミテージさんのすてきなじてんしゃ
クェンティン・ブレイク/作 ひがしはるみ/訳 あかね書房 1300円

かみさまのいうとおり
藤田のぼる/作 久住卓也/絵 PHP研究所 950円

ワトソン一家に天使がやってくるとき
クリストファー・ポール・カーティス/作 唐沢則幸/訳 くもん出版 1400円


 子どもたちは不気味なものが大好き。黒を基調にしたこの大判の絵本『光る生物』には、出てくるわ出てくるわ、暗闇で怪しい光を放つ魚、虫、キノコなど異形の生物がゾロゾロ。目をまん丸に見開いて、この本に見入る子どもたちの姿が目に浮かぶようです。暗がりでボンヤリと光を放つポスターまでついてます。

 『アーミテージさんのすてきなじてんしゃ』は、一転して明るくゆかいな絵本です。愛用の自転車で散歩に出かけたアーミテージさん、必要に駆られてどんどん自転車に改造を加えていきます。ついには、文字どおりイメージの暴走とでももうしましょうか、ものすごい姿になるのですが……。ひょうひょうとした、アーミテージさんの表情がとても魅力的です。

 子どもにだって、ときには夜も眠れないほど思い詰めて考えなければいけないような選択を迫られる場合があります。そんなときのとっておきのおまじないが『かみさまのいうとおり』。それにしても、主人公つばさくんが直面する悩みのなんとも幸せなことよ。私ももういっぺん子どもにかえって、こんなふうにたっぷり悩んでみたいなあ。イラストもほのぼのしていて、とってもいい感じ!

 『ワトソン一家に天使がやってくるとき』は実に中身の濃い作品です。思春期特有の、自意識過剰でそのくせあまり周りが見えていないオバカな毎日を送る兄貴のバイロン、しっかりもののケニー、心優しい末っ子のジョーイらが繰り広げる日常のエピソードは、それだけでも抜群の面白さ! 笑ったり、涙ぐんだりとしっかり楽しめます。その上、やがて巧妙に織り込まれた黒人差別というテーマも立ち現れてきて、読者はさまざまなことを考えさせられることになるのです。



毎日新聞 1998年4月  掲載紙から  トップ

どうぶつはいくあそび
きしだえりこ/作 かたやまけん/絵 のら書店 1300円

じっけん きみの探知器
山下恵子/文 杉田比呂美/絵 福音館書店 667円

つるばら村のパン屋さん
茂市久美子/作 中村悦子/絵 講談社 1400円

はいけい女王様、弟を助けてください
モーリス・クライツマン/作 唐沢則幸/訳 横山ふさ子/絵 徳間書店 1350円


 『どうぶつはいくあそび』はタイトルそのままに、遊びの感覚で俳句を楽しんでしまおうという小さな絵本。案内役は動物たちです。たとえば、蟻のありおくんが作った句はこんなぐあい。「みちのこいし ひとつこえては あせをふく」 それぞれの句には、もっともらしい感想がそえられていて、いっそう楽しさも増します。子どもといっしょに散歩にでかけて、はいくあそびで季節を愛でるなんて、なかなか風流でいいと思いませんか?

 簡単な実験を通して、ふだん何気なく使っている自分の「感覚」のふしぎに気づかせてくれるのが『じっけん きみの探知器』。視覚、聴覚、味覚、嗅覚など、どの感覚にもふしぎがいっぱい。自分の体をじっくり見つめ直すきっかけにもなるでしょう。それにしても、糸とスプーンだけで作る「スプーンのベル」の音色の美しさには、私もびっくりしました。

 『つるばら村のパン屋さん』は、焼きたての香ばしいパンの香りがただよってくるような、あたたかいファンタジー。林のなかの農家の台所で、宅配専門のパン屋さんを開いたくるみさんの元に、一風変わった注文の手紙が舞いこんだのは春のはじめのことでした。タンポポのはちみつ入りのパンを、蓄音機のレコードを鳴らしながら焼いて欲しいというのです。そして、その注文主とは……。パンの香りに誘われるような、ふしぎなできごとを次々と重ねながら、つるばら村の四季はめぐってゆきます。

 不治の病に冒された弟をなんとか救おうとけなげに飛び回る兄の物語……。そんなのずるいよ、泣いちゃうに決まってるじゃないの、というのが『はいけい女王様、弟を助けてください』を読みはじめてすぐの感想。ところがこの本、全然しめっぽくはないんです。奇抜なアイディアと抜群の行動力を持つコリンに振り回されて、ぐいぐいと物語に引きこまれます。随所でクスクス笑いながら。
 でも、最後にはやっぱりボロボロ泣いてしまいました。当初の予想とは全く違う意味での涙だったのですが。



毎日新聞 1998年7月       掲載紙から   トップ

時計つくりのジョニー
エドワード・アーディゾーニ/作 あべきみこ/訳 こぐま社 1300円

さよなら、ありがとう、ぼくの友だち
河原まり子・利岡裕子/作 岩崎書店 1300円

ひとしずくの水
ウォルター・ウィック/作 林田康一子/訳 あすなろ書房 2000円

セイリの味方スーパームーン
高橋由為子/作・絵 偕成社 1000円

不思議を売る男
ジェラルディン・マコーリアン/作 金原瑞人/訳 偕成社 1500円


 『時計つくりのジョニー』は、イギリスを代表する絵本作家アーディゾーニが四十年ほども前に発表した作品です。年代を感じさせるいい意味での渋さはありますが、テーマ自体はちっとも古びていません。ひとりの少年が、両親や学校友だちの無理解に傷つきながらも、数少ない協力者を見出して、自分の意思をつらぬき、すばらしい成功を成し遂げるという物語です。小さな少年が、背丈の二倍はあろうかという大時計を完成させるのですから、その対比も鮮や!

 『さよなら、ありがとう、ぼくの友だち』は、ペットの死という心の痛みを扱っています。私にもつらい経験がありますが、愛するペットを失った子どもの心は、固く閉ざされてしまうもの。この本では、お父さんが自らの体験を語って聞かせるという形で、かたくなになった子どもの心にそっとよりそい、穏やかな癒しを与えてくれます。
『ひとしずくの水』は、水のさまざまな様態を科学的に紹介した写真絵本です。表面張力、毛細管現象、凝結などといった、少々難しい言葉も登場します。と、ここまで読んだら、なんだか難解そうね、としりごみする方もいるかもしれませんね。でも、だいじょうぶ、幼い子どもたちもきっと夢中になって見入ることでしょう。水が見せる不思議な現象をとらえた写真は、いずれも息をのむほど美しく、詩情さえ感じさせます。そう、センス・オブ・ワンダーに満ちた絵本なのです!

 男性の評者が、女の子の生理を扱った本を取り上げると、どきっとされる方も多いでしょうか。でも『セイリの味方スーパームーン』の著者の願いは、そうした妙なタブー視を取り除いて、大事な体の問題として、誰もがきっちりと、しかもおおらかに受け止める土壌を作ることなんですよね。周到な取材にもとずいて、たくさんの情報がもりこまれていますが、とても楽しく読めます。女の子やお母さんにはもちろん、男の子にも、お父さんにもぜひ読んでもらいたい一冊です。

 『不思議を売る男』を書いているとき、作者はさぞかし楽しかったでしょう。なにせ、この一冊には、民話、海洋冒険物語、推理小説、ラブロマンス、ホラー、ファンタジーなどなど思いつく限りの物語形式が封じ込められているのですから。短編を寄り合わせたアンソロジーではないんですよ。ちゃんとひとつの物語として完結させているのですから、そのお手並みは見事というほかありません。でも、どうしてそんなことが可能なのかって? それは読んでのお楽しみ。



毎日新聞 1998年10月       掲載紙から   トップ

オークの木の自然誌 OAK TREE
リチャード・レウィントン/絵 デイヴィッド・ストリーター/文 池田清彦/訳 メディアファクトリー 2400円

犬のウィリーとその他おおぜい
ペネロピ・ライヴリー/作 神宮輝夫/訳 理論社 1500円

林家木久蔵の子ども落語
林家木久蔵/編 フレーベル館 1500円

なぞのトランプ占い師
那須正幹/作 西村郁雄/絵 小峰書店 1200円


 『OAK TREE』は、一本のオークの木のまわりで生きる生物だけをとりあげた一冊の図鑑です。図鑑だなんて大げさなと思う方はぜひ手にとってみてください。たった一本のオークの木が、いかに多様な生命の営みを支えているかを知って、きっとおどろくことでしょう。哺乳類、鳥、昆虫、キノコなどなど細密に書きこまれた美しいイラストをながめているだけで、時のたつのも忘れてしまいます。巻末には学名、英名、和名併記の索引もついています。助かる!

 『犬のウィリーとその他おおぜい』も、考えようによっては、同じようなコンセプトを小説にもちこんだ作品だといえなくもありません。一軒の家のなかで暮らす動物たちだけにスポットライトをあてて、その毎日の冒険を描いているのですから。それにしても、犬やネズミをはじめとして、クモやワラジムシまでが生き生きと活躍する物語なんて、かつてあったでしょうか! イギリス流ユーモアたっぷりで、ムフフと笑いながら楽しめます。

 ムフフのつぎはワッハッハ。『子ども落語』です。したり顔の文明論で、日本人にはユーモアのセンスがないなんていわれることがありますが、とんでもない! あらゆるパターンの笑いを取りそろえた落語というすばらしい文化をもっているんですから。ちょっとした時代背景を解説した「ひと言雑学」や充実した脚注もついているので、子どもにも楽しめるでしょう。でも、ここはひとつ、噺家になったつもりで、ぜひ、読み聞かせてあげたいものです。続編も楽しみ!

 『なぞのトランプ占い師』は「ズッコケシリーズ」でおなじみ那須正幹さんの新シリーズ「コロッケ探偵団」の一巻目です。ちょっと頼りないコロッケこと衣川啓次郎、しっかりものの姉さん、不良の兄ちゃん、新聞記者の娘、陽子などが大活躍の楽しいミステリー。それぞれのキャラクターがとってもいい。なかでも、強烈なのがコロッケの母ちゃん! どう強烈なのかは読んでのお楽しみ。


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