メニュー読書室レビュー集千葉茂樹レビュー集


北海道新聞 1999年3月     掲載紙から   トップ

はるかな湖

アレン・セイ 作・絵
椎名誠 訳
徳間書店 1600円


 せっかく夏休みを、とうさんとふたりですごすことになったのに、とうさんは仕事仕事でぜんぜんおもしろくない。そんなある日の朝早く、ぼくはとうさんにたたき起こされた。ひみつの湖にキャンプにいくぞって。
 ぼくたちは、重い荷物を背おって一日中歩きとおして、やっと、そのとうさんだけのひみつの湖にたどりついた。ところが、そこに待っていたものは……。
 どうやら、わけあって普段は一緒に暮らしていないらしい親子の心の交流が、しみじみと胸を打ちます。
 これがはじめての翻訳という椎名さんの文章も、すがすがしくていい感じ。


つきよのおんがくかい

山下洋輔 文 柚木沙弥郎 絵
福音館書店 1200円


 山のてっぺんに、いろいろな動物が、いろいろな楽器をもちよって、月を見ながら一晩中ゆかいな音楽会をくりひろげるという、いとも単純明快な絵本なのですが、これが楽しいんですよ。
 ジャズピアニストの山下さんの文章は、子どもたちをクスクス笑わせずにはおきません。まるで、音でくすぐるかのようにね。それは『もけらもけら』や『ドオン!』で実証済みですが、本書も、まちがいなく子どもの心をうきうき、クスクスさせてくれるでしょう。絵も、明るくてシンプルでモダンで、とてもいい。ぜひぜひ、大きく声にだして読んであげてください。


あなたがもし奴隷だったら……

ジュリアス・レスター 文 ロッド・ブラウン 絵 
片岡しのぶ 訳
あすなろ書房 1800円


 かつて、何百万人ものアフリカの人々が、奴隷としてアメリカへと運ばれていきました。この大判の絵本は、想像もつかないほど過酷な奴隷船の航海からはじまって、人間あつかいされずに「もの」として売り買いされ、働かされた奴隷たちの歴史を鬼気迫る入魂の絵とともに描き出しています。
 人間の尊厳とは、そして自由とは、なんなのだろう? 読んでいて、様々な気持ちが渦巻きました。
 けっして、手に取りやすいタイプの本ではないかもしれません。しかし、本書を読んだ我が家の子どもたちは、ほかの人たちにもぜひ読んでほしいといってくれました。


アマガエルとくらす

山内祥子 文 片山健 絵
福音館書店 667円


 昨年の夏、カエルを飼いはじめた末っ子につきあわされて、夕方になると毎日、捕虫網をふりまわしてハエをつかまえていました。もちろん、餌にするためです。
 結局、あたりに秋の気配がしのびより、虫の影が薄くなってきたのを期に、近くの沼にはなしにいったのですが。
 本書は、長年にわたって、愛情をこめてアマガエルと暮らした家族の、とても丹念な飼育の記録です。知っているようであまり知らないアマガエルの生態が、くわしく語られています。
 それにしても、アマガエルが十年以上も生きるなんて、知らなかったなあ。


古城の幽霊ボガート

スーザン・クーパー 作 
掛川恭子 訳
岩波書店 1800円


 ボガートは、スコットランドの古城に住むいたずら好きの妖精です。姿を見せることなく、代々の城の住人たちに、たわいもないいたずらをしかけることを無上の喜びとしてきました。何千年もの間……。
 ところが、このボガート、ひょんなことから大西洋を渡ってカナダの都会にやってくるはめに。目にするものすべてが珍しく、次々といたずらに励み、大混乱を巻き起こします。やがて、望郷の念にかられるボガートは、はたして故郷に帰れるでしょうか。
 由緒正しいイギリスの妖精物語の雰囲気と、コンピューターに夢中な現代っ子たちの生き生きした生活物語を同時に味わえます。


ナヤ・ヌキ--大草原を逃げ帰った少女

ケネス・トーマスマ 作 
おびかゆうこ 訳
出窓社 1400円


 ネイティヴ・アメリカンのショショニ族の間で語り継がれる、勇気ある少女の物語。いまから二百年ほど昔、十一歳の少女ナヤ・ヌキは、バッファロー狩りの旅のとちゅうで敵部族にとらえられ、家族と離れてはるかかなたの土地へと連れていかれます。
 しかし、ナヤ・ヌキは、ひそかに周到な準備を進め、ある嵐の夜、ついにひとりで逃げ出します。ナヤ・ヌキは追手の影におびえながら、狼や灰色熊などの襲撃にも耐え、自分の足と知恵だけを頼りに、ついには千六百キロもの途方もない距離をこえて、再び故郷に帰りつくのです!
 驚くべきサバイバル小説。



北海道新聞 1999年7月     掲載紙から   トップ

ふしぎなともだち

サイモン・ジェームズ 作 
小川仁央 訳
評論社 1400円


 レオンは新しい町にひっこしてきたばかり。パパは軍隊にはいって遠くにいってしまいました。ママと過ごす時間もあまりありません。でも、レオンには、だれにも見えないけれど、ボブという友だちがいるのです。朝ごはんはボブの分も用意していっしょに食べるし、学校にも話しながらいきます。パパからきた手紙も、ボブに読んであげます。ある日、となりの家に男の子がひっこしてきました。レオンは気になってしょうがないのですが……。
 不安と孤独が生み出した目に見えない友だちと過ごすレオンの姿には、胸を打たれます。でも、最後には暖かい結末がまっています。


たこのぼうやがついてきた

ダン・ヤッカリーノ 作 
きやまかすみ 訳
小峰書店 1300円


 絵もお話も、あっけらかんと突き抜けた味わいの楽しいナンセンス絵本です。ある日、女の子がたこのぼうやをつれて家に帰ります。おとうさんに飼ってもいいでしょ、とたのみますが、おとうさんは許してくれません。さあ、それはなぜでしょう。
 意外性に満ちた物語の展開、大胆なフォルム、モダンな色使い、随所に工夫の凝らされた画面構成……。若い感性で描かれたとても個性的な絵本です。ぜひともほかの作品も見てみたくなりました。それにしても、カバーのそでに添えられた、作者紹介まで人を食ってるんだから!


視覚ミステリーえほん

ウォルター・ウィック 作 
林田康一 訳
あすなろ書房 1800円


 この本を読み終えると、きっと自分の目が信じられなくなるでしょう。錯覚を利用した写真で、読者の目に挑戦する絵本です。答えを知りたくて、はやくページをめくりたくなるでしょうが、ぜひともゆっくりと時間をかけて楽しんでください。そうじゃなくちゃあ、もったいない。じっくり考えた末に答えを知ったときの驚きといったら! もっとも、答えを知った後にも、不思議な気持ちが残るのがこの本のすごいところ。最新のコンピューター・グラフィックの技術などいっさい使わず、オーソドックスな写真の技術だけでやりとげたとのこと、いやはや、その努力とテクニックには脱帽です。


恐竜たちの大脱出

松岡達英 絵 羽田節子 文
福音館書店 1900円


 コマ割りでコミック仕立てに進む壮大なSFであると同時に、恐竜についてのふんだんな知識を得ることができる図鑑であり、科学絵本でもあるというぜいたくな作品です。さすが、物語性のある科学絵本作りの達人、松岡さんが生み出したものだけあって、恐竜たちの生態をあくまでもリアルに描きながら、読者をいきいきとした物語の世界へと誘ってくれます。
「恐竜探偵フェントン」(小峰書店)という恐竜がテーマのミステリーシリーズを翻訳している、恐竜大好きのわたしも満足(えへっ、宣伝してしまった)。


鳥の巣の本

鈴木まもる 作
岩崎書店 1500円


 絵本作家の鈴木まもるさんに、『鳥の巣展覧会』(河出書房新社)というエッセイがあります。山暮らしの鈴木さんが、家のまわりで見つけた鳥の巣の話題を中心に、身近な自然について語ったものです。で、今回取り上げた本書は、その鈴木さんが、図鑑絵本シリーズの一冊として、子ども向けに書き起こしたものなのです。見ているだけで楽しい図版や写真がたっぷりで、鳥たちの知恵の結晶である鳥の巣について、くわしく知ることができます。実は我が家の玄関にも、オブジェ風の鳥の巣が飾ってあります。末っ子が拾ってきたものを、鈴木さんの本をヒントに、ちょいと細工したものなんですよ。


レモネードを作ろう

ヴァージニア・ユウワー・ウルフ 作 
こだまともこ 訳
徳間書店 1600円


 貧しいこの町の暮らしから抜け出すには、大学にいくしかない。そう思い定めた十四歳の少女ラヴォーンは、学費の足しにとベビーシッターのバイトをはじめます。ところが、バイト先の二人の子どもの母親ジョリーは、十七歳で未婚、自分以上に貧しく、厳しい問題を抱えていたのです。現代アメリカの暗部に迫る重たいテーマの作品なのですが、前向きでユーモアを忘れない二人の交流に、いつしかすっかりひきこまれてしまいます。物語の細部にまで命が吹きこまれていて、いくつもの印象的なシーンが、いつまでも心に焼き付いて残っています。



北海道新聞 1999年10月     掲載紙から   トップ

春の日や岩に雀の砂あひて

リチャード・ルイス 編 エズラ・ジャック・キーツ 絵 
いぬいゆみこ 訳
偕成社 1600円


 小林一茶や与謝蕪村などの俳句に絵をつけた俳句絵本なのですが、おもしろいのはこれが翻訳本だということ。元の俳句はもちろん、英訳とそれをもう一度日本語にもどした邦訳もついているんです。
 たった十七文字から無限にイメージの広がる俳句の世界を絵にしてしまうのは、もしかしたら邪道なのかもしれません。
 でも、いまの子どもたちにとってみれば、ここに出ている俳句は、外国語と同じくらいわかりにくいものともいえるでしょう。アメリカを代表する絵本作家であるキーツの豊かな感性を経由して味わうのも、また、ひとつの鑑賞法なのです。


水晶さがしにいこう


関屋敏隆 作
童心社 1400円


 子どもの頃、日曜になるたびに山に通い、水晶さがしに没頭したという作者が、その秘訣を伝授してくれるとても実用的な絵本です。水晶さがしのこころえをはじめとして、必要な道具やさまざまな知識をおしげもなく披露してくれます。
 それだけでも十分読んで得した気分なのに、親子三代で出かけた冒険の、幸福な思い出の記録としても楽しめるのですから大満足。
 それにしても、水晶と一口にいってもいろんな種類があるんですね。こんなにきれいなものを自分の手で掘り出せるかもしれないと思うと、ちょっといってみようかと思う人も多いのでは。


ざしきわらし一郎太の修学旅行

柏葉幸子 作 岡本順 絵
あかね書房 1100円


 友だちとのけんかがもとで、単身赴任の父をたずねて家出した少年と、住みついていた家の人を不幸にしてしまった罰として、東京へ修学旅行に出されたざしきわらしが、新幹線のなかで出会いました。
 意気投合したふたりはなんとか東京についたものの、公園で団地族の子どもたちにからまれたり、泥棒にさらわれたりと、あれよあれよというまにトラブルにまきこまれていきます。さて、どうなるのやら……。
 さすがに本場、岩手出身の作者の手によるだけあって、ざしきわらしの存在感がしっかりあります。


おじいちゃんの目、ぼくの目

パトリシア・マクラクラン 作 
若林千鶴 訳 広野多珂子 絵
文研出版 1200円


 ジョンのおじいちゃんは、目が見えません。でもジョンは、おじいちゃんが「見ている」世界がとても豊かなことを知っています。おじいちゃんの家にいくたびに、ジョンもおじいちゃんの目を通して世界を見るからです。
 目をつぶって耳をすますと、それまで聞こえなかった音が聞こえてきて、いろいろなことを教えてくれるし、においをかげば、朝ごはんのメニューもちゃんとわかる。散歩に出れば、太陽のぬくもりや風を感じられる。
 おたがいにいつくしみあうおじいちゃんと孫の、おだやかで心あたたまる交流がここにはあります。


マリーを守りながら

ケヴィン・ヘンクス 作 
多賀京子 訳
徳間書店 1400円


 十二歳の少女ファニーにとって、気むずかしい画家である父は、ときに理解を超えた難物です。そんな父から、欲しくてたまらなかった犬をプレゼントされたファニーですが、その犬を愛すれば愛するほど、父の気まぐれで取りあげられてしまわないかと気が気でありません。
 小さなことにおびえたり、喜びを見いだしたりするファニーの心理がこまやかに描かれていて、読者はいっしょになって一喜一憂することでしょう。
 同じ年頃の娘がいて、気むずかしくて芸術家肌のわたしも(だれだ、笑ってるのは!)ひとごととは思えずに読みました。


もちろん返事をまってます

ガリラ・ロンフェデル・アミット 作 
母袋夏生 訳
岩崎書店 1400円


 明るく活発な少女ノアと、脳性マヒの少年ドゥディがひょんなことから文通をはじめました。素直に心を開き、まっすぐに気持ちをぶつけるノア。むずかしい境遇にありながらもしっかりと現実を見つめ、自分をいつわることなく勇敢に日々の生活に立ち向かうドゥディ。
 やがてふたりは、強くひかれあうようになります。しかし、ぜひ会いたいというノアの申し出に、ドゥディは悩みます。自分の体をコントロールすることもままならない姿を見せることへの戸惑いがあるのです。
 はたして二人の友情のゆくえは……。はらはらしたりどきどきしたり、心を激しく揺すぶられました。


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